「あのぉ」
その方は申し訳なさそうに入って来られました。
「はい、こんにちは」
「りょうたく先生でらっしゃいますか?」
お歳はそうですね、80歳頃の女性です。
「はい、どうされましたか?」
「今、よろしいですか?」
「えぇ」
「いや、生前は主人が大変お世話になりまして。〇〇の家内です」
ここ数ヶ月ご来院がなかった〇〇さん。
先日新聞のお悔やみ欄でお名前をお見かけした時は、私はもちろんスタッフさんも凄く寂しく思っていた〇〇さんの奥様でした。
55年以上生きてきているのにダメですね。こういう時って言葉が全然出てきません。
「あ、わざわざ・・・あ、いや、この度はまことに・・・」
「いえ、先生ね。これを」
と、小さな白いビニール袋。中から出て来たのはブルーベリー。
「私は『そんなん、もろた人も迷惑やろからやめとき』ていつも言ってたんですけど、本人の趣味でねぇ。色んな人に上げるのを楽しみにしてたんです。だもんで、ご迷惑かも知れないとは思ったんですが・・・」
〇〇さんは途中で神様に召され、後を奥様と息子さんとで作って下さったとのこと。
「今日はりょうたく先生とこ持っていかなにゃ」と毎年おっしゃっておられていたのを奥様は覚えててらして、それで。
〇〇さんの姿が目に浮かんできました。
きっとおっしゃられてたでしょう。いつものように少し照れながら
「ほい、先生。今年のぁちいと大粒じゃ。味は分からんぞ」。
ありがとうございます。
今年のブルーベリーも美味しかったです。文句なしですっ!