「調子が良くてね」の落とし穴と大谷選手

嬉しいことに、治療が上手くいくとこんなお言葉を頂きます。

Aさん「こないだの後スゴイ調子が良くてね。いつもだったら一軒だけで帰るんやけど、続けて三軒買い物に行ったんよぉ」

Bさん「あの後調子が良くてね、いつもやったら5分くらい歩いたら休みたくなるんやけど、30分歩けたんよ」

Cさん「最近調子が良くてね、こないだは最後まで台所仕事出来たんよ」

「何や?ええ話やないかい?自慢したいんか?」

というお声が聞こえそうですが、違うんです。

こういうお言葉頂いた時の施術後、次回ご来院された時にはえてして

Aさん「なかなか治らんねぇ。あの後(前回の施術後)は痛くて動けんかって、買い物は主人に行ってもろたんよ」

Bさん「こないだは、やっぱり5分に戻っとったわい」

Cさん「やっぱり、途中で休み休みじゃないと台所出来んわぁ」

となるんです。

なぜ?治療が上手くいってないの?

いえ、治療が上手くいってないわけじゃないんです。

指導が上手く出来てなかったんです。

(「指導」も込みで「治療」じゃないか!と言われれば、確かにおっしゃる通りですが)

 

Aさん、Bさん、Cさんの言葉を、それぞれ言い換えてみるとよく分かります。

先ずはAさん。

「こないだの後スゴイ調子が良くてね。いつもだったら一軒だけで帰るんやけど、続けて三軒買い物に行ったんよぉ」というのは、

「うちに来られるまでは痛くて買い物も満足に出来なかった」

ということです。スーパーってけっこう広いですから、大変なんですよね。

で、Bさん。

「あの後調子が良くてね、いつもやったら5分くらい歩いたら休みたくなるんやけど、30分歩けたんよ」というのは、

「うちに来られるまでは痛くて、5分以上歩けなかった」

ということです。5分以上歩くのを邪魔する何かがあったということですよね。

さらにCさん。

「最近調子が良くてね、こないだは最後まで台所仕事出来たんよ」というのは、

「うちに来られるまでは痛くて台所で長い時間立っていられなかった」

ということです。お台所仕事って、ちょっと前かがみで同じ場所で立ち続けている状態です。それを邪魔する何かがCさんにあったということなんです。

それを踏まえると、Aさんが買い物に3軒も行けたというのも、Bさんが30分も歩けたというのも、Cさんが最後まで台所仕事が出来たというのも、それまで出来なかったことが出来たのは確かに嬉しいことなのですが、身体とすると

「普段痛みで出来なかったこと(=していなかったこと)をさせられた」

という事でもあります。

 

普段運動をしていない子が野球部に入って、いきなりグランド10周したら?

普段運動してない子が柔道部に入って、いきなり腕立て伏せ50回したら?

普段運動してない子がサッカー部に入って、いきなり腹筋100回したら?

いくらその後で柔軟体操やストレッチしたって筋肉痛を起しますよね。

翻って患者様たち。

以前は何てことなしに出来ていた事が痛くて出来なくなっていた買い物や散歩や台所仕事です。

痛みが軽くなったら、そりゃ、やりたくなりますわね。

 

ただ、「気持ち」はやりたくても、「身体」はその準備は出来ていません。ていうか、しばらくしていなかったんですから、以前を思えば状態は「ゼロ」ではなく「マイナス」です。

そこにいきなり痛みが無かった頃と同じことをさせられた「身体」はたまったもんじゃありません。

例えば、今年(2024年)は肘の治療中でバッター専任の大谷選手。

手術の跡も順調にひっついて、経過も良好だとしましょう。もちろん、そのはずだと思います。

周りにはそのスジのプロ中のプロばかりです。

ただ、「痛み」というのは大谷君以外、誰にも分かりません。

「痛いだろうなぁ」とか「こういう痛みかなぁ」と思いを寄せることは出来ても、大谷君が感じている痛みと全く同じ痛みの感覚は誰も完全には共有出来ないんです。

そこで、大谷君が

「お、今日は調子がいいぞ。動かしても痛くない。投げるマネしても問題なさそうだ」

と思って、いきなり160キロの球投げようとしますか?

せぇへんでしょ?

おそらく大谷君のことですから、一日も早く復帰してピッチャーもやりたいはずです。やりたくてやりたくて仕方ないはずいです。「気持ち」はね。けど、「身体」はまだその準備が出来てないんです。

靭帯断裂手術後の状態と、うちに来られる患者様方の状態はそりゃ全く別モンです。

 

ただ、「気持ち」と「身体」の関係は同じだと、ボクは思います。

 

「痛みがあって出来なかった」というのは、「痛みがあったため、その動作が出来なかった」ということで、「その動作をするために必要な体の機能を使っていなかった」ということです。言い換えるなら、「そういう筋肉の使い方をしていなかった」「筋肉が動いてなかった」ということ。

筋肉が原因で起きる症状の厄介なところは、負担がかかると痛いので、治療期間中は極力そこに負担をかけないことが大切なのですが、じゃぁ、ジッと安静にしていればいいかというと、そうではない点です。

ボクはこう考えます。

ジッとしている

=動かない

=筋肉に動きが無く柔軟性が落ちる

=動き始めると痛む

=痛みがあるので動けなくなる

=結果、治りが悪く(遅く)なる

ですから、患者様にはこうご指導するようにしています。

 

「治療の期間中はなるべく無理しないで下さいね。頑張り屋さんほど治りが悪いんです。早く良くなろうと頑張ろうとすると、それだけ身体に負担がかかりますから。ただ、痛みが軽くなってきたら、今度はなるべく動いた方がいいんです。ただ、ここでポイントは焦らないこと。痛みが軽くなってついついアレやコレややりたくなるし、出来ちゃうと思うんですけど、しばらくできなかった事をした分、今の身体の限界を超えて負担がかかることになりますからね。痛みが軽くなった=治ったではありません。治った=少々のことでは痛みが再発しなくなった、ですから、痛みが軽くなった時こそ心のサイドブレーキをかけるくらいの気持ちでいてきださい」

と。

クドクドクドクドクドクド・・・長っ^^;

長いでしょ。

そうなんです。長いから、患者様もすぐ忘れちゃうんです。で、痛みが軽くなると嬉しくて動きたくなるんですよね。けど、それって、大谷君がいきなり160キロの球を投げたくなるのと同じなんです。

ですから、患者様にはお帰りになる際に短い言葉で声掛けするようにしています。

 

「〇〇さん、今はまだアレコレしたくなっても我慢して下さいね」

「はいはい、分かりましたよ」

「こういう場合、専門用語でどういうか知ってます?」

「え?何て言うの?」

調子のんなよ!ですw」

「んもぉw」

調子のんなよ!

 

追記)

もう少し「調子のんなよ!」の補足させていただきます。

言い換えるなら

1)お出でになるまで痛くてもしなければいけなかった事して下さい。

2)それ以外(以前はやっていたのに、痛くて出来ていなかった事)はしないで下さい。

ということになります。例えば

1)は「トイレにいく」、「食事をする」、「お風呂に入る」、人によっては「仕事する」などです。

2)は「掃除する」、「洗濯物を干す」、「食事を作る」、人によっては「仕事する」などです。

「えぇー?せっかく痛くないのにぃ?」

と思われるでしょうが、まず大切なのは

1)が痛み無く出来るようになることです。

どうしてもしなくちゃイケなかった事が出来なかったんでしょ?

先ずはそこからです。

先日もありました。電話口で

「治療した後は『治ったんかな?』と思うくらい良かったのに、翌日掃除機かけたら痛みがヒドクなってしまうんよ。もう、アンタん所には行かない」と。

こうなったら、何を言っても聞いてもらえません。ですから、ここで愚痴らせてもらいます。

なるほど。お宅の掃除機ってスイッチさえ押せば掃除が出来る状態でその場にあったんですか?

押し入れにしまっていないまでも、

→部屋の隅に置いてあったのを引っ張り出して来て、

前かがみでコード引っ張り出して、

→大概低い所にあるコンセントに前かがみで差し込んで、

→床に置いてあるホースを前かがみで持ち上げて、

→スイッチ押して前かがみになる。

という動作って、1)と2)、どっち?

普通の人間なら、前かがみになればその度に姿勢を戻す動作が起こりますど、アナタは特別なんですか?

ま、勉強になりましたわw