現場検証と推理小説

時折思います。

治療の見立てをする人には二つのタイプがあって、それは「現場検証」タイプと「推理小説」タイプだなと。

 

 

前者は科学的な技術を駆使した「現場検証」をもとに犯人を特定する人で、後者は犯行現場やその周囲の人の聞き込み、何ならその犯行当時の天気や風向き、犯行現場の歴史などにもこだわって紐解きながら犯人を特定する人。

私は思います。

前者の人の

「症状がある→それを聞いてレントゲンやMRIを撮る→そこに写った画像の中に原因を特定する」

というのは、

「犯行現場があり、そこに血が付いたナイフが落ちている→指紋を取る→犯人を特定する」

のと同じじゃないかと。

真犯人がそのナイフを素手でもって犯行に及んでいたならそれでオールOKですが、

他に可能性はないの?と考えるのが後者

・誰かが日常で使っていたナイフを手袋した犯人が持ってきて刺したという可能性は?

・そのナイフに倒れている人の指紋もついていて、実はその人が誰かを刺そうともみ合いになり間違って自分に刺さってしまった可能性は?

・心筋梗塞か何かで倒れていた人を、常日頃その人に恨みがあった人が近くに落ちていたナイフで刺した可能性は?

・犯行は実は他の場所で行われ、血が付いたナイフと一緒にその人がそこに遺棄された可能性は?

・・・・・

「腰が痛いんですけど・・・」

という患者さんがいます。レントゲン撮って

「ここ(椎間)が狭くなっているからですね」

という人がいます。私なんかは思います。

「で?」と。

「椎間が狭くなると腰が痛むの?」と。

「腰が痛くない人は椎間が狭くなってないの?」と。

「じゃ、なぜその人の椎間は狭くなったの?」と。

「他の原因で痛みが起こる可能性はないの?」と。

「歩くと脚やお尻から下が痛いんですけど、ちょっと休むとまた歩けるんです」

という患者さんがいます。MRI撮って

「ここ」という人がいます。私なんかは思います。

「で?」と。

「脊柱管が狭くなると痛みで歩けなくなるの?」と。

「痛みなく歩けている人は脊柱管が狭くなってないの?」と。

「じゃ、なぜその人の脊柱管は狭くなったの?」と。

「他の原因で同じ症状が起こる可能性はないの?」と。

背骨って一本の棒じゃありません。

魚の背骨をイメージしてみてください。だるま落とし人形でもいいでしょう。

円柱型の積み木が何個も連なった上にだるまさんの顔がのっかっています。

円柱型の積み木が背骨、だるまさんの顔の所が頭蓋骨です。

椎間板は椎体(円柱型の積み木)と椎体(円柱型の積み木)の間にあるクッション材です。

ではなぜ、そのクッション材が狭くなるのでしょうか?

脊柱管と言っても、一本のホースが体の中にあるわけじゃありません。

ものすごくザックリ言います。すんごいザックリです。

だるま落とし人形の一個一個の円柱型の積み木の後ろ側に穴が開いていて、それが上から順に連なってホースのようになっているんです。しかも上の積み木と下の積み木は、それぞれ積み木にある突起物が電車の連結部分のように複雑にひっかけあうような形になっています。で、それらがじん帯と呼ばれる固いゴムのようなもので覆われ繋がっているので、上から見たら「あたかも一本の管が背骨の中にあるように見える」んです。

ではなぜ、その管の中が狭くなるのでしょうか?

色々考えられます。

~椎間板~

クッション材を弾力材としたら、その弾力性がなぜ落ちるの?

赤ちゃんの頬っぺたのプルプル感、今のあなたにありますか?

うっかりうたた寝した時、頬っぺたについた洋服の跡が若いころに比べて長く残ってませんか?

買ったばかりの座布団と長いこと使った座布団、座った後どうなってますか?

~脊柱管~

管の中を覆っているのがじん帯という固いゴムだとしてら、「管が細くなる」=「ゴムが分厚くなる」ということ。とすると、なぜそれが分厚くなるの?

野球選手が素振りをしたら手の皮が分厚くなりません?

お相撲さんの足の裏がカッチカチなのはなぜ?

そういう所に解決の糸口がないでしょうか?

 

現場検証で犯人を推理することはとても大事な事だと思います。

現場に決定的な証拠があって犯人が特定されることもあるでしょう。

ただ、それだけで捜査を進めると行き詰まることがないでしょうか?

 

「腰痛の85%は原因不明」とよく言われます。

言い換えるなら15%しか原因と画像が一致しないんです。

いや、その15%もたまたま原因のように思える画像が写ってるだけなのかもしれません。

誰かの指紋が付いたナイフのように。