足首の捻挫が原因で腰痛に?

今回は「風が吹けば桶屋が儲かる」的なお話です。

 

腰痛で来られた患者様に必ずお聞きすることがあります。

「足首やお膝をお怪我されたことはありますか?」

です。

「え!腰がツラいのに脚ぃ?」「話のネタがないの?」

みたいに思われるかも知れませんが、実は自分の治療では何気に大きなポイントなんです。

なんちゃって柔道部からマジ運動部へ

中学高校と一応柔道部にいたりもしましたが、小さなころからただのブーデーで、運動らしい運動をしてこなかった自分が、大学に入って初めて“マジな”運動部に入りました。

しかも、アメリカンフットボール。

アメリカの医学部で言われる話に

「おぉ、君は整形外科医を目指しているのか。じゃぁ、アメリカンフットボール部の練習場に行けばいい。ありとあらゆるケガに出会えるはずだ」

というものがあるくらい、ケガの多いスポーツの一つです。

御多分に漏れず、自分も色々しましたです。

学生時代は右足首前距腓靭帯の損傷右肩の肩鎖関節不全脱臼(上腕骨肩甲下筋付着部の損傷)バーナー症候群

社会人時代は左膝内側側副靭帯断裂右脚大腿二頭筋部分断裂右脚大腿部内側広筋断裂右足首距腿関節脱臼、そして一度だけ人生初のぎっくり腰

ついでに、コーチ時代は右膝前十字靭帯半月板損傷左脚下腿部腓腹筋断裂

よく覚えてるでしょ?スポーツ選手あるあるだと思うんですが、いわゆる「ケガ自慢」です。

特に、学生時代の一発目にした「前距腓靭帯損傷」なんて、平たく言えば「足首のゴッツイ捻挫」程度なんですが、生まれて初めてギプスなるものをしたんです。

もちろん、痛いし不便なんですよ。けどそれ以上に

「(へへへ、俺ってこんな激しいスポーツしてるんだぜぇ・・・ワイルドだろぉ)」

的な恍惚感が勝ってて、

「えぇー!正岡君、どーしたのぉー?」

と女子に言われに普段行かない講義にも出席したりなんかして・・・

 

イカン、話がそれました。

 

もちろん、色んな要因はありますよ。ありますが、この足首捻挫が後のぎっくり腰や、そのまた後の後に起きる右脚のシビレや鈍痛や麻痺にも繋がっていくきっかけになっていると、今では思うんです。

 

(どんな)風が吹けば桶屋が儲かる(腰痛が起きる)のでしょう

足首を捻挫しちゃうとどうなるでしょう?

先ず、足を地面につけません。自分も当初はギプスをして、松葉杖を使っていました。

松葉杖やギプスが外せるようになっても、まともには歩けません。

なるべく、右足に体重をかけないようかけないに歩きます。

こんな感じ
で、こんな感じで

今は全然大丈夫なんですが、痛い人の歩き方、上手いでしょ?

学生の時に研究したんです。

なぜ?

練習を休むためです。

 

風邪ひいたとか、気分が悪いとかだと、下宿にいないとダメなんです。

だって、携帯はおろか各部屋に電話なんて無かった時代ですから、練習を終えた先輩らが

「おーい、大丈夫かぁ」

と心配して(という名目で、「本当に体調不良か?サボってんじゃねぇか?」とか、「このまま辞めるつもりじゃねぇだろうな」と)様子見に下宿にやって来ますから。

アリバイ作りのために、元気でも外に遊びにいけない。

そこで見つけたのが、ケガした先輩です。

練習や試合でケガをすると、グランドに姿を現しながら正々堂々と練習を休めるんです。

これだッ!試合に出るレベルじゃない自分でも、練習でならケガが出来るぞ!」

 

そこからは、ケガしてリハビリをしている先輩の姿を横目に練習。

参考になったのは、当時の4年生の矢野さん。

最終学年に膝のケガをされて、ご本人は本当に悔しかったでしょうが、そんな思いも知らずに矢野さんにロックオン。

「(ふむふむ、膝が悪いとこういう歩き方になるのか)」

で、下宿に帰って窓ガラスに映る自分の姿を見ながら復習。

そんな毎日でした。

 

(そのくらい、練習キツかったんです)

 

けど、罰が当たったんでしょうね。

「(いつ、この歩き方を披露するためのケガをしちゃろか?)」

と思っていても、なかなかそういうシチュエーションて来ないんです。ワザとすぎてもダメですし、本当にケガするのは嫌だし。

なんてやってる時にしちゃったのが、右足首前距腓靭帯の損傷というゴッツイ捻挫。

もうこれは、ロバート・デ・ニーロも真っ青の迫真の演技。いやいや、デ・ニーロ・アプローチどころか、マジケガでしたから。

窓ガラスに映る自分の歩き方を見て

「あぁ、なるほど。だから、こうなるのね」と思ったものでした。

また、そんな中、矢野さんは膝で自分は足首。

微妙な歩き方の違いにも気づいたりしたものです。

 

イカン、またまた話がそれました。

 

足首捻挫をすると

話を戻します。

右足首の捻挫をすると、右脚に体重をかけたくありません。なるべく、左脚に体重をかけた状態にしたくなります。

とすると、右脚に長い間体重をかけないようにしたいから、右脚を前に出したくない歩き方に(左脚を前に前に運ぶような歩き方に)なります。

また、体重がかかった状態で右足首が動くのが嫌なので、右足つま先を外に向けた状態にしたくなります。

となると、どうなるのか?

元気な人は、脚が前後に開いて歩きます。背筋をピンと伸ばして歩く動作を股関節の動きで言うと

前に出す脚の股関節は屈曲(上半身に対して折りたたむ動作)、後ろ側に残った脚の股関節は伸展(上半身に対して引き伸ばされる動作)です。

右足首の捻挫を起こすと、左脚に体重をかけたいために、上半身は左前に左前に傾いて歩くようになります。

脚を左脚より前に出すと、当然そちらに体重がかかりますし、次に左脚を前に出すまでの時間(右脚に体重がかかったままの時間)が長くなりますし、またその次に右脚を前に出す時に足首にギュッと負担がかかります。

ですので、結果的に、やや前かがみで右脚は常に後ろに残した状態になります。

この歩き方が続くと、どうなるか?

こうなると、右脚は「歩くために脚を動かす=屈曲・伸展する」というより、「右脚という丸太ん棒を前にもって来る=屈曲」だけになってしまいます。

股関節を屈曲させる筋肉として、一番の要は腸腰筋と呼ばれる筋肉です。

太ももの骨の根元と骨盤と背骨の腰の部分をつなぐ太くて強い筋肉です。

 

筋肉は、骨か骨をつないで、その筋肉が収縮(縮む=力を発揮する)ことで、関節を曲げる働きをします。重いカバンを持つ時に肘を曲げる上腕二頭筋(力こぶ筋)がそれです。

また、その収縮した(縮んだ)筋肉が伸ばされないように、脳からの「簡単に伸ばされるな!縮み続けろよ」という指令で頑張る働きがあります。

ダンベルを落とさないように頑張る時の上腕二頭筋がそれです。

さて、腸腰筋。

 

前かがみで歩き続ける動作は、右脚を前に持って来る(屈曲)ことはするけど、上半身に対しての伸展は起こりません。

「曲げはするけど伸ばさない」状態です。

筋肉はジッとしていると(曲げ伸ばしされないと)固くなる性質がありますので、こういう歩き方が続くと固くなっていきます。

細かな話になりますが、腸腰筋には「股関節外旋」という働きもあります。

「股関節の外旋」というのは、つま先を外に向ける動きです。

「気を付け!」の時って、自然とつま先開きますよね

捻挫すると、足首に体重をかけて曲げ伸ばししたくないので、つま先を外に向けたままの歩き方になります。これもまた、腸腰筋に伸展(ストレッチ)がかからない事であり、ますます固くなる要因です。

腸腰筋、大腿直筋が死ぬほど伸ばされます

 

固くなった腸腰筋

 

このようにして固くなった腸腰筋は、寝ている時以外は常に上半身の重さを支えて頑張ります。

固くなった筋肉は、それ自体で「血行不良による痛み」を起こします。

血行不良の状態の筋肉は満足な仕事が出来ませんから、上半身を支えることがツラく感じます。

「腰が重いのよね」

というお声をよく聞きますが、腰の重量が急に重くなったりしません。

「腰が重いのよね」=「元気な時とくらべて、腰がちゃんと仕事出来てないのよね」ということです。「肩や首が重い」というのも同じ状態であることが多いと考えられます。

腸腰筋は股関節を屈曲(身体を折りたたむ)する筋肉ですので、固くなると逆の動作(折りたたんだ身体を伸ばす)の邪魔になります。イスからの立ち上がり動作で痛みがあるなら、先ずは腸腰筋を疑います。

血行不良の筋肉が起こす痛みであれば、逆に血行が良くなれば痛みは改善するはずです。

朝一番というのは、寝ている間に身体や脳が休まるのですが、寝ている間(=ジッとしている間)に固くなった筋肉が動き始める時間帯です。

腸腰筋は身体を折りたたむ筋肉ですから、寝床から起きる(=上半身を起こす)動作は、潤滑油が行き渡ってない機械を無理やりフル稼働させるような状態ですので痛みを起こします。

しかし、潤滑油が行き渡ると機械は動きます。

筋肉はジッとしていると固くなると書きましたが、これまた逆に言えば「適度に動いている方が血液が循環して調子が良くなる」ということです。

高校球児が朝の第一試合の時に、早朝3時に目覚ましをかけて準備する話を聞いたことがあると思いますが、いかに若い学生でも、朝起きたばかりではベストパフォーマンスは発揮できないのです。

 

「朝が一番痛いんだけど、なんやかんやしてたら楽になってるのよ」

というのは、痛みの原因は「寝ている間に筋肉がカチンカチンになっていること」だと先ずは考えます。

 

ということはつまり、腸腰筋が「寝ている間くらいの時間ではカチカチにならないような状態」になればいいんです。だって、朝一番快調なら、その後動けば動くほどいいんですから。

 

筋肉とシートベルト

 

また、細かな話は別の機会に譲りますが、筋肉にはシートベルトのような性質があり、ゆっくり引っ張ると徐々に伸びますが、急に引っ張るとガキっとロックがかかった状態に固まります。

柔軟性が落ちた筋肉であればあるほど、このロッキングは起こると思われます。

腰で起これば、そうです、「ぎっくり腰」です。

 

「急に」と書きましたが、「不意に」とか「準備不足で」とした方が良いかも知れませんね。

元気いっぱいの高校球児ですら第一試合のために未明から準備体操が必要なのに、それが出来ていない「血行不良で固くなっている筋肉」に負担がかかったら?

「負担だなんて」と思われるでしょうが、上半身の重さはいかがですか?

ざっくり、ご自分の体重の半分がその筋肉にかかったとして。

 

儲かるのは腰痛という桶屋さんだけじゃなく

 

今回は腸腰筋についてだけ書きましたが、

股関節が外旋したまま固くなるとお尻の筋肉が固くなって・実は・・・

腸腰筋が固いまま放置すると、鼡径部(タケシさんの「コマネチ!」の部分)を通る〇〇や□□が・・・

という症状にも繋がっていくのです。

 

ですので、腰痛で来られた患者様に必ずお聞きするんです。

「足首やお膝をお怪我されたことはありますか?」と。

もちろん、スポーツ話(ケガ自慢?)でコミュニケーションのがはかどるってのもあるんですけどね。

 

長くなりましたが、

捻挫という風が吹けば腰痛という桶屋さんが儲か・・・痛いんだから、全然「儲け」ではないですが^^;

お付き合い下さり、ありがとうございました。