56歳男性のぎっくり腰 その2

さてさて今回は、前回「その1」の最後に書かせていただいた「今まで体験したことがないタイプの痛み」のお話です。

「体験したことがなかったのか、あったけど意識して考えたことがなかったのか」は定かではありませんが、もしかしたら皆さんも経験があられるのかも。

ワケわかめ?

「今まで体験したことがないタイプの痛み」というのはどんな痛みかと言うと「え!なんでこんな時に痛みが起きるの?ワケワカメ」という痛みなんです。

患者様との問診の時、最も聞き出したい項目の中でナンバーワンと言ってもいいくらいなのが

「どうする時に痛いですか?」です。もしくは、

「どういう風にしていると楽ですか?」

痛みを起こすきっかけが分かれば「じゃぁその逆をすればいい」し、痛みが起きない状態をお聞き出来れば「じゃぁ、その状態を体にすればいい」となるからです。

「いや、何をしてなくてもいつも痛いのよ」という方もおられます。

これもこれで凄いヒントになるんです。場合によっては内科的な問題が隠れているかも知れません。

ですが、今回私が体験したのは

え!え!今、ナニきっかけで痛みが起きたの?」というもの。

痛みが起きていたのは左の腰からお尻にかけて。

特にお尻は「ビーリビリビリビリィ―――ッ!」という、まさに電気が走るような痛みです。

世の中的には「坐骨神経痛」と呼ばれているのがコレにあたるのでしょう。

ですが、こちらも曲がりなりにもプロです。どんな時に「坐骨神経痛」が現れるかは分かります。なんなら、その痛みを誘発する検査も知ってます。

やりましたよ。

SLR,フリップテスト、ローテーション、ケンプテスト・・・どれもそれなりの痛みや違和感はあるものの「ビーリビリビリビリィ―――ッ!」とはならないんです。

それどころか、以下のような時に起こるんです。

・イスに座っていて上体を右にほんの少しひねった時

・背もたれにダラァっともたれていた状態から上体を起こそうとした時

・仰向けに寝ていて、わずかに体を動かそうとした時

・何気なく前かがみになろうとした時

意味が分からないのが

・湯舟からあがろうと両手でお風呂のへりを抑え「さぁ」とした時

などなどです。それぞれ「時」と書きましたが「瞬間」という方が正しいですね。

ホント、瞬間的に「ビーリビリビリビリィ―――ッ!」なんです。

いわゆる「坐骨神経痛」は、何らかの原因で坐骨神経が圧迫されたり刺激を受け、痛みやしびれなどが起こることをいいます。

多くの場合、腰椎(背骨の腰の部分)に起こる異常によって坐骨神経が圧迫され、下肢(足)に痛みやしびれを引き起こすのですが、坐骨神経に障害が起こると、お尻、太もも、ふくらはぎ、足にかけて、鋭い痛みやしびれ、張り、冷感や灼熱感、締めつけ感などのいろいろな症状が起きるんですね。代表的な場所は、お尻、太ももの後ろ側・ふくらはぎで、一部分だけに強く感じることもあれば、下肢全体に強く感じる場合もあります。

私の場合は「主に左のお尻だけ」なのですが、問題は

「坐骨神経を圧迫したり障害する」ほどの「きっかけ」が無いことなんです。なのに、起きるんです。

「ビーリビリビリビリィ―――ッ!」という痛みが。

ハッ!

で、昨日来られた比較的軽めのぎっくり腰の患者様の時に「ハッ」と思ったことがあったんです。

その患者様にベッドに仰向けで寝ていただくようにしたところ、

ベッドに背中がつくかつかないかという瞬間に「ウっ!」というお顔をされたんです

寝てしまわれたら全然大丈夫なのですが、その瞬間だけ明らかに痛そうなお顔をされていたんです。

そう言えば思い出しました。寝違えの患者様も枕に頭がつくかつかないかの瞬間「ウっ!」という表情をなさいます。

筋肉には「相反神経反射」というものがあります。

重いダンベルを持って肘の曲げ伸ばしをするトレーニングがあります。力こぶの筋肉(上腕二頭筋)を鍛えるトレーニングです。普段の生活なら、重いバッグを持つ動作になるでしょうか?

腕にも色んな筋肉がありますが、大きなものに上の上腕二頭筋というものがあり、これは肘を曲げる(屈曲する)時に頑張る筋肉です。

一方で上腕三頭筋というのがあり、これは肘を伸ばす(伸展する)時に頑張る筋肉です。

頑張るというのを言い換えると「縮む」、運動学的に言うなら「張力を増す」と言いますが、例えば屈筋(上腕二頭筋)の張力が増す時は伸筋(上腕三頭筋)の張力は減退するというように、肘(関節)を動かす拮抗筋(相反する働きをする筋肉)の一組については、神経は協調的に支配していることを「相反神経支配」というんです。

一方が頑張る時は一方は気を抜くように神経がコントロールしています。

ダンベルトレーニングで言うと、ダンベルを降ろす動作は、急に「ドスン!」と落として床を傷つけたりしないように肘を伸ばす動作ではあるのですが、上腕二頭筋とすると急に伸ばされないように「張力を発揮しながら伸ばしている状態」になります。その間中力こぶは固いままです。「じゃぁ、上腕三頭筋は?」というと、その間中何もしていないかというとそうではなく、拮抗する上腕二頭筋の頑張り具合にちょうどつり合いが取れる程度の頑張りをしている(頑張れ!とコントロールされている)状態なんだろうと思います。

で、頑張って頑張って最後の最後床にダンベル落とす瞬間って何が起こってるんだろう?

力こぶ(上腕二頭筋)側はダンベルから手をパッと離しますが、拮抗する上腕三頭筋側はその瞬間はまだ頑張ってる状態なのではないでしょうか?

つまり上腕二頭筋の張力が緩むより、呼応している上腕三頭筋の張力が緩むのは一瞬遅れてしまう、と。

一瞬だけ筋肉のバランスが崩れ無駄に頑張っている時間ができるのではないでしょうか?

一瞬、電気が走るような痛みって・・・

とすると、今回感じた私の

・イスに座っていて上体を右にほんの少しひねった時

・背もたれにダラァっともたれていた状態から上体を起こそうとした時

・仰向けに寝ていて、わずかに体を動かそうとした時

・何気なく前かがみになろうとした時

・湯舟からあがろうと両手でお風呂のへりを抑え「さぁ」とした時

は、まさに「気が抜けていた瞬間」。

その動作において、お尻の筋肉の張力(緊張)のバランスが崩れた瞬間にお尻の筋肉が「無駄に頑張って」しまったがために起きたのでは?なんて思ってしまったんです。

患者様のおっしゃる「一瞬電気が走った」というのはコレかも?

とするならいわゆる「神経痛」呼ばれるものの中にも「神経の障害」とは全く無縁なものもあるのでは?なんてことを考えるようになったんです。

 

坐骨神経痛に限らず「神経痛」と呼ばれているものの考え方には色々あります。

私は少し懐疑的な立場です。どういうことかというと

・世の中で「神経痛」と言われている(もしくはお医者様から神経痛だと診断されている)症状の中には神経が何らかの障害を受けて症状を起こしているものもあるが、疼痛誘発テストでストレスを受ける筋肉や筋膜が起こしている痛みもあるのではないか、ということ。

・「神経痛」と呼ばれる症状のうち、シビレや鈍痛などと呼ばれるものは、その症状が起きている部分の血行が悪い状態を神経が感じている状態ではないか、ということ。

図にするとこんな感じです。

それに加えて、今回の経験を踏まえ

・動かした瞬間に起こる痛みや、どんな時に起こるか分からない瞬間的な痛みは、「相反神経支配が崩れた瞬間」を意味しているのではないか。

という推測が加わりました。

とすると、そういう痛みの治療には、痛みが起きる部分の筋肉の拮抗筋や共同筋を治療すればより治療が効果的なものになり、より早く患者様から痛みを取り除いてあげられるのではないか、という気持ちがしています。

 

そんなこんなで、ちょいとワクワクしています。痛かったですが^^;

 

その3では、これは以前から考えていたことですが、改めて自分で確認出来たことについてお話してみたいと思います。

「ぎっくり腰で歩けない」について、です。